<22psを稼ぎ出す新しい吸排気系>
901/01型130psでスタートしたポルシェ911のフラットシックスは、
31年後の94年993でほぼその倍にあたる272psまで成長した。
その間に排気量も1.8倍に増えてはいるが、小排気量ほど有利な
出力比も約65ps/Lから76ps/Lへ強化されている。パワーの算定
方法や排出ガス基準も、その間比較にならないほどきびしくなって
いるから、実力そのものは2倍以上といって差し支えないだろう。
ところで前任車たる964との比較でいうと、993のパワーユニットに
目ざましい進歩はないように見える。排気量は3.6Lのままだし、
ヘッドレイアウトも基本的に同じで、パワーアップは22psでしかない。
このため94年式993デビュー直前には、964のカレラカップ仕様の
エンジン(260ps)がそのまま移植されるのでは?という憶測も
流れたほどである。
表2 パワーユニット比較 | 94年型911(993) | 93年型911(964) |
基本形式 | 空冷水平対向6気筒 | ← |
ヘッド形式 | 2SOHC12バルブ | ← |
燃焼室形状 | 半球形 2プラグ | ← |
ボア・ストローク | 100×76.4mm | ← |
メインベアリング数 | 8 | ← |
排気量 | 3600cc | ← |
圧縮比 | 11.3 : 1 | ← |
燃料/点火系制御 | ボッシュモトロニックM2.10 | ボッシュモトロニックM2.1 |
最高出力 | 272ps(200kw)/6100rpm | 250ps(184kw)/6100rpm |
最大トルク | 33.7mkg(330Nm)/5000rpm | 31.6mkg(310Nm)/5000rpm |
上記の表2で、パワーユニット(型式名は993の後ろ二文字を採ってM93)の基本的
なスペックを確認する。パワーアップの最大の要因として挙げられるのが、排気系の
処理である。964では、両バンク下側に出た排気はマニフォールド直後で1本に
まとめられ、触媒→サブマフラー→メインマフラーという経路を経て排出されていたが、
993ではいったんマニフォールドの後で1本にまとめられた後(O2センサーが付く)、
再び分流してそれぞれがメタル担体触媒→マフラーという独立した経路を流れるのだ。
993の触媒/マフラーは8/21Lと充分な容量を持つため排圧が減少し、パワーアップ
につながったのである。さらに吸気系にも新たな技術が投入された。それはすでに
日本車ではポピュラーになっている吸気脈動を利用したもので、インテークチャンバー
内に設けられたフラップを3000〜5000rpmの間で閉じることにより、中回転域の
トルクとトップエンドパワーを両立させるものである。
<軽量高バランス化>
もちろん吸排気系の違いだけが変更のすべてではない。というより、この新しい
パワーユニットが売り物とするのは、22psのエクストラよりもむしろ軽量化や
メンテナンスフリー化なのである。軽量化の内容はかなり手のこんだものだ。
クランクケースの中でも最も質量の大きいクランクシャフトは、捩り剛性向上のため
900g重くなったが、逆にそのぶんトーショナルダンパーを廃してクランクプーリーで
代用できたため、振動軽減に要した重量はたったの168g。さらにピストン、コンロッド
などの軽量化(表3参照)により、クランクケース内の部分で合計818gの軽量化が
可能となった。
表3 | 94年型911(993) | 93年型911(964) |
ピストン | 602 | 657 |
コンロッド | 520 | 632 |
クランクシャフト | 15,403 | 14,487 |
クランクプーリー(964はトーショナルダンパー) | 429 | 1,161 |
クランク系合計(上記以外含む) | 22,564 | 23,382 |
ちなみにクランクケース内の材質はアルミ、シリンダーバレルは、低圧鋳造アルミの
スリープ部にニッケル−シリコンのメッキを施した”ニカシル”シリンダーと、これまで
どうりである。ヘッドはこれまでと同じSOHC(両バンクで2SOHC)気筒あたり2バルブ
のレイアウトで、燃焼室形状は半球形型である。ヘッド部で目を惹くのは、ついに油圧
ラッシュ・アジャスターが採用されたことだ。スプリングとチェックボールで形成される
ラッシュ・アジャスターは、いまどきないほうが珍しいほどポピュラーな機構だが、911
のフラット6では初採用である。(959の水冷ヘッドを除く)これで2万kmごとに必要と
されていたタペット調整のコストと手間が不用となり、ノイズの低下やウォームアップ時の
排ガス浄化、ノイズの低減も実現されている。バルブまわりの軽量化も抜かりはなく、
バルブシステムがインテーク/エグゾーストとも1mm細くされたことをはじめ、
バルブスプリング・リテーナーも薄くされ、結局バルブまわりでも表4のような軽量化が
振動/騒音の低下に寄与している。
表4 | 94年型911(993) | 93年型911(964) |
インテークバルブ | 103(中空) | 112(中空) |
エグゾーストバルブ | 103 | 114 |
バルブスプリングリテーナー | 16 | 25 |
バルブスプリング(ダブル) | 33 | 30 |
ロッカーアーム in/ex | 69/75 | 77/77 |
ラッシュアジャスター | 5 | - |
タペットクリアランス調整スクリュー | - | 13 |
バルブ系合計(上記以外含む) | 22,564 | 23,382 |
2000-09-21NEW !
<冷却系統>
911を実際に維持する上で、最も頻繁に必要となるメンテナンスはオイル交換であり、
そのコストと手間はオーナーに決して少なくない負担を強いていたが、993はその点も
大きく改善された。オイル交換の指定インターバルがこれまでの日本仕様の5000km
から20000kmへ延長されたのだ。オイルフィルターの交換はこれまでどおりオイル交換
2回に対して1回だから、オイルフィルターはフューエル・フィルターと同じく40000kmも
使えることになった。ただしそのフィルターは、エンジンベイ右奥だけでなく、もう一つ小型
のものがリターン系に追加されている。オイルライフが伸びた理由については明らかに
されてないが、クリアランス管理の徹底や、材質向上などの他、これまでの交換インター
バルがもともと過剰気味であって、ユーザーの不満をポルシェが無視できなくなったので
はないかと想像される。ルーフのターボエンジンでさえ、日本のポルシェ指定より長い
インターバルで充分としているのだ。ちなみに指定のオイルはSAEの10W30で964と
同じである。オイルクーラーはこれまでどおり右フロントフェンダー内に設置される。
サーモスタットは87℃で開き、また油温が110℃に達すると電動ファンが作動する。
現代の911は空冷というより油冷に近いとはよくいわれることだが、まだファンの果たす
役割は少なくない。リアスポイラーのグリルから吸い込まれたエアーは、12枚の
インペラーを持つファンに導かれ、フロアパンへ排出される。
その流量は1m3/SEC(=1000L/SEC)という膨大なもので、1時間では車重の3倍
以上にあたる4300kg/hの空気を送り出すという。
続きは工事中